奏お姉さまの友人達

「やっぱり…慣れない…」
多くのリリアンの生徒達がマリア像に手を合わせ、家路をたどる傍ら…
薫子は苛立ちを紛らわすように足早に…校舎に戻ろうと足を急がせる。

「薫子さん?ちょっと…」
こんな風にすれ違い、驚く少女達の声も気にならない


これも、校風に慣れないあまりの、初日に教室で忘れ物をするという失敗をしてしまったからだ。
自分のうかつさを呪いながら、小走りで校舎へ入ろうとする薫子だったけれど…


「待て、薫子」
そんな静かな…有無を言わせない声に、驚いて振り向かされる…
リリアンの上級生と思われる生徒が、無表情で立っていた。


「生徒の流れに逆行して小走り…焦りと自己嫌悪…何よりその警戒を隠さない振り向き方…全てリリアンの生徒を不快にさせてしまう…」
そんな事を脈絡もなしに言ってくる。
歯に衣着せない言い様に驚かされるけれど、さらに薫子に動揺を与えたのは、その上級生の表情だった。

全く、喜怒哀楽の何も読み取る事ができない…
だから考えさせられてしまう、自分がリリアンに来たのは間違いだったのではないかと…

「私はそんな薫子に納得してる。奏の妹なのも含めて」
そんな薫子の内心を見透かしたのか、それともただの気まぐれなのか
上級生は靴箱から薫子の靴を出してきた。

「私は小鳥遊圭たかなしけい、あなたの姉の周防院奏の演劇部の先輩。目ぼしい一年生を演劇部にスカウトするための鑑定中」
…奏お姉さまの先輩…らしい上級生はよくわからないけれど、並べられた靴を履いていると…


「小鳥遊圭さま?…それに薫子ちゃん?」
奏お姉さまが、3人のリリアンの生徒達と一緒にこちらに向かって歩いてきた。
その三人は

「ごきげんよう、七々原薫子ちゃん。私は新聞部の山口真美で二年生。
 学年度が始まる一日前に姉妹関係を成立させるなんて、最速記録よ。おめでとう」
「あ…ありがとうございます」
髪を七三に分けた人…山口真美さんと名乗ってる…がそんな事を言ってきた。


「私は武嶋蔦子。写真を撮るのが趣味…ってとこかしらね」
眼鏡が特徴的な人…武嶋蔦子さん…がそんな事をいってカメラを取り出す。

「初対面で撮影は遠慮しておくけど、いずれは写真を撮らせてね」
「は…はい」
なんだかあのカメラ、かなり年季が入ってそうだ。


「私は厳島貴子。奏さんと同学年で、同じ演劇部。よろしく」
今度は映画女優もかくやと思わせる豪奢な金髪の方…あれ…


「厳島…?」
い…厳島って…まさか…あの厳島グループの…。

「学園では人種・思想・信条・宗教・社会的身分・門地などによる差別を行うべきではない…その事がわからない私ではありません」
思わずつぶやいた薫子に、表情を変えることなく間髪入れずに返してきた。

気付かれた…この人…厳島の令嬢である厳島貴子に…薫子の素性を…。
思い出してしまう…教室の全員からの疎外感…腫れ物に触るような周囲の人間達…

「疾病・障がいなどによる個人の尊厳を傷つける行為を行わない…を追加するべきかしら?」
小鳥遊圭さんがそう付け加え…。

「…何を心配してるのか分かりませんが。その心配は杞憂で失礼ですよ。薫子ちゃん」
奏お姉さまがそんな事を言ってくれて…

ずっと学舎で感じていたあの感覚が消えていく。
慣れない校舎内で、自分のことを気にかけてくれる人に合うという事が、ここまで安心できる物だなんて思わなかった。

「すっ…すみませんっ…」
言葉に詰まる…自分は、何を言えばいいのだろうか?

「あたしは…」
わからない、こんな時何を話せばいいのか…自分は…知らない。

「でも私は尋ねませんよ。薫子ちゃんは私の妹ですから」
奏お姉さまの言葉に、うつむいて何もいえない。


「部外者は退散するべき…私達は話をし過ぎた」
場を読んでくれたのか…小鳥遊圭さんがそんな事を言ってくるけど。
違う…話をし過ぎたなんて…そんな事…ない….
薫子に問題があるだけだ…それなのに…

「そうですね。写真を撮る機会はいくらでも訪れるもの」
「取材の駆け引きは押すだけじゃ駄目だものね」
事情を知らないはずなのに…そんな事を言ってくれる奏お姉さまの同級生達も…。

「そういう意味では私もリリアン学園に慣れていないもの…そうなってしまうのは恥ではないわ。それでは、ごきげんよう」
こっちの事情を察してくれた上で…そんな事を言ってくれる厳島貴子さんも…

すべてがまぶし過ぎて…

「行きましょう、薫子ちゃん」
そんな奏お姉さまの後に着いて行く事しかできなかった。




あとがき
「私は尋ねませんわよ。貴女は私の義妹ですから」
プリズマ☆イリヤでそんなセリフがあったような…


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