ハッピーエンド




歓迎会が終わり他の新入生にまぎれてお御堂を出る。

すると、まりやが見知らぬ一人の三年生を連れて待っているのが見えた。


「瑞穂ちゃん、紹介するわね。
 築山美奈子といって新聞部の部長をしているの」

「私が以前書いた記事で迷惑をかけたようね」

「いいんです。もともとの原因はまりやだったのですし」

一応、不肖の従姉妹の事をわびておく。
でも油断はしていない。
『いい?くれぐれも新聞部に気を許しちゃ駄目よ。
 あの偏屈部長とあたしのいない所で口を利くのも禁止』
とのまりやのありがたい警告を既に三回は聞いているからである。



「原因なんて人聞きの悪い。
 イエローローズ事件という不祥事で、あの時の美奈子は過激な記事を書けない状態だったのよ。
 だから、ミステリーのアンケートという形で安全にインパクトを出すっていう案を出してあげたんじゃない」

「そして、ミステリー七番の部分を編纂したのはあなただったわね…」
「ふふ」

そうだった…。
その結果、瑞穂がやってくる前に宮小路瑞穂の名は広まってしまったのである。



「そういう訳で瑞穂さん、新入生歓迎会の内容を教えてもらえないかしら」

やっぱりそうきたか。
こういう恩を売ってからの強引な取材も完全にまりやの予想通り。
そして、この人に現実を教えるのは残酷なような気がする。

なにしろ新聞部の人がすでに…。



「残念ですが、その必要はありません」

振り向くと、久保栞さんが幸せいっぱいと言う感じの藤堂志摩子さんをはじめ、山百合会のメンバーを連れてやってきていた。


「築山美奈子さん、一年前に志摩子の告白を脚色して注意されたのをもうお忘れですか?
 強引な取材も憶測も控えてくださいね。
 あとは任せます、お姉さまの面倒を見てあげてくださいね真美ちゃん」


「げっ…真美。どうしてあなたがお御堂から出てくるの?」

実の妹にげっはないと思います新聞部の部長さん。


「なんですかその、『げっ』は…
 まあそれは置いておいて私が新入生歓迎会に参加してきました。
 お姉さまが間違って書いてしまった一年前の告白室の内容も網羅してあります」

ピンで七三分けにしてあるクールそうな子は築山美奈子女史の妹の山口真美ちゃんである。



「あきらめなさい美奈子、あなたは絶対妹には勝てないわよ。
 お姉さまは素直に妹に支えられなさい」

哀れむように肩をたたくまりや。
支倉令さん・島津由乃姉妹のように、新聞部も妹が強いようである。




「独占取材なんて、あなたいつの間にそんなことするようになったのよ〜
 御門さん、なんとかして。 このままじゃ新聞部が乗っ取られるわ!」

「いい加減、世代交代の時期が近づいていると悟りなさい。
 あたしもそろそろ妹に陸上部を譲る準備をしようと思ってるのよ」


妹に完全敗北して打ちのめされた声をあげる美奈子さんにまりやの適切な助言。
驚いた、まりやって意外と面倒見がいいんだ。






そんな二人を観察していると

「ご苦労様。ずいぶん優等生した新入生だったこと」

新入生歓迎会で、一緒に口論する芝居をした紅薔薇さまがねぎらってくる。

芝居とはいえ、射すくめるような視線や毅然とした言葉は紅薔薇さまの貫禄が十分にあって
あの時は危うく声が震えそうになってしまったものだ。


「もう少し控え目なほうがよかったでしょうか?」

「途中から台本と違う展開にした栞さんよりマシよ。
 本当に、心臓が凍るかと思ったわ」

確かに、乃梨子ちゃんが衆人環視の中で白薔薇さまを問い詰めるのは台本に無かった。




「もし台本から外れた場合は全て私に任せてください。
 みなさんを不安にさせてしまうでしょうが、何とか抑えてください」

そんな会議での栞さんの言葉が思い出される。
あの時から全てを新入生の前で話す事を考えていたとは恐れ入る。






「そうじゃなくて、祥子はほめているのよ。
 それとも愛しの妹が見つからないせいかしら」

余計な解説をするなとばかりそんな事を言ったまりやをにらむ紅薔薇さまだけど、まりやが祐巳ちゃんを指し示すとすぐにそちらへ向かって行った。






「あんまり祥子を刺激しないでよ」
「わかってますよ。黄薔薇さま」

全然分かってない声を出すまりやにまだ何か言いたそうな支倉令さんだけど。

島津由乃ちゃんの怒ったような声にあわてて去っていった。
まりやいわく、黄薔薇さまはつぼみとお食事会らしい。







それにしても…

小笠原祥子さんと福沢祐巳ちゃんの紅薔薇姉妹。

支倉令さんと島津由乃ちゃんの黄薔薇姉妹。

今日、全員が見ている前で関係を新たにした白薔薇姉妹。

築山美奈子さんと山口真美ちゃんの新聞部姉妹。



「リリアンのスールって…千差万別なのですわね」

隣を歩くまりやに聞いてみる。
まりやにも上岡由佳里のという陸上部つながりの妹がいたし…




「瑞穂ちゃんも。妹が欲しいのかな」
こちらの意図をどう曲解したのか、いきなりただならぬ事を聞いてきた。


「冗談はやめてよまりや…できるはずない…ですわ」
思わず未修正の言葉を口にしてしまいあわててお嬢さま言葉に訂正する。



そりゃ、お御堂の二人は本当に綺麗だったよ。
たとえ時が過ぎても二人の関係は変わらず、互いに幸せになれるだろう。



だから、瑞穂にはそんな物が許されないと確信している。

誰かを妹に持てば、けっしてその子を幸せにできない事になっているのだから。









あとがき

ええい、一生の不覚。
未完成のままアップロードしたものをサイトに乗せて気付けないとは…

とにかく、瑞穂ルートのエンドです。

しかし私が書くと小笠原祥子さまがとてもヘタレになってしまう…




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