花咲く頃に会いましょう(乃梨子編)

明治に設立された、由緒正しきお嬢さま学校。
浮世離れしたその校風に、乃梨子は登校二日目にしてうんざりさせられていた。
しかし、建造物を一歩出れば目に入る、動く事のない物…上品に整えられた植え込みや木々は、対称的に乃梨子の気を引いてくる。

境界線を引きながら、景観を整えるような配置は、乃梨子の知るお寺の風景と通じる物がある。
そんな中人通りの少ない、人の手の入りにくい奥の場所…境界線の解れた領域に脚を運ぶ事になったのは…桜吹雪に誘われたから。



でももし、そこに先客がいたのだとしたら。
その人はきっと、一人になりたかったに違いない。



景観を損なわないように保たれている、自然の意図を最大限に尊重されたその場所は
普通じゃない雰囲気が感じられる。
見えない仕切りで区切られたかのような…
そして、この場所が別世界であるかのような印象を与える…舞い散る桜吹雪を流す風が…
その世界の住人を、ついうっかりと運んできてしまったのような…


例えば、妖精…とか。

そんな現実離れした考えを抱かせるほど。
乃梨子にとってその少女は不思議なものに見えた。





「あ…」
目を閉じたリリアンの上級生の姿を見たした瞬間。
声を上げてしまうという間違いを犯した事に気付いてしまった。

失敗した…とっさに雰囲気の読めなかった自分を呪う…

「ここは立ち入り禁止の場所というわけではないの」
そんな…乃梨子の後悔が顔に表れていたのか、こんな場所にいる不思議なリリアンの生徒は話しかけてくる。

乃梨子とは対称的に、リリアンの制服があつらえたように似合う外見も異様だった…でも…

「一人で見るのがもったいなかったから、お客様が増えてちょうど良かったわ」
…妖精のようだなどと我ながら浮世離れした考えを持ってしまったのは場の雰囲気に飲まれたのもあるけれど…この人の内面にも原因があるのだと確信する。

こんな場所に一人…それは一人になりたい場合にしかあり得ない。
そんな個人的な内情を押し包んで…乃梨子を歓迎するというこの人の気遣いは、その意図が分かっていても心地よく感じられる。

「この場所に…引き寄せられた…。こんな木が好きだから…」
つい…そんな事を口にしてしまうのは、きっと…

「貴女も特別に、この木に惹きつけられたのね」
…やはりこの人も自分と同じような経緯でここに来たことがわかったから…

「私は、2年生の藤堂志摩子というの」
「私は、二条乃梨子。一昨日が初登校の1年生…」

2年生の藤堂志摩子と名乗りに応えて、名前を教える乃梨子だったが…今度は不可解を感じ始めていた。

「見るのも聞くのも…話すことまで…慣れない事ばかりだから…張り詰めてしまったみたい」

乃梨子の予感が正しければ。同じような経緯でここに来た藤堂志摩子さんは、リリアンの喧騒を離れて一人になりたかったという事になる。

「3年間、通う事はできそう?」
しかし、登校3日目の乃梨子はともかく、一年間通ったはずの藤堂志摩子さんが乃梨子と同じ心境になるという事は…
その事情は知ってはならないような気がしてきて…


「友達が一人できたから何とかなりそう。
私と同じようにリリアンに心構えなしに入ってきてしまった人…名前は七々原薫子さん…」
…つい…こっちの事情をまくしたてるうちに…個人情報をバラしてしまった事に気付いた…

「七々原薫子ちゃん…寮の子ね…そして、周防院奏さんの妹」
どうやらこの人は、薫子さんの事を知っているらしい。
よかった…失言は大した問題じゃなかった。


「私が言えた立場じゃないけれど…友達と語り合いなさい。」
そう言って、志摩子さんはこちらに両手を伸ばしてくる。
その志摩子さんの…繊細な両手がこちらの顔に向けて伸ばされ…

反応もできず、上級生の手に挟まれて…動けなくなってしまう。


「この場から離れられないように…」
そう言って背を向け、志摩子さんは立ち去る。
その指に、乃梨子の髪に取り付いた桜の花びらが摘まれているのを見てようやく、志摩子さんのさっきの行為を理解する。

「私のようにならないように…」
でも、その言葉の真意を計り知ることはできそうになくて。
桜よりも幽玄な、その後ろ姿を見送る事しかできなかった。




あとがき

久保栞さまが間に入っているので、マリおとバージョンの藤堂志摩子さんは佐藤聖さまと原作よりは軽い関係であります。

なので、桜の下にいるのは佐藤聖さまを想うのとはちょっと違う理由なのです。
あと。アニメ版を見すぎたせいか、長い時間が経過しているせいか、志摩子さんの性格も変わってます。

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