「見た目はお嬢さま」との出会い×? 乃梨子が早朝、 「昨日は、御門さまと新しい寮生をお迎えになっておりました。 とても楽しそうでしたよ」 何の話をしていたかを聞かれると、悩み相談とだけ言っておいてそれ以上は何も言わないし、言えない。 本当の事なんて、口が裂けてもいえるはずがないし。 「奏さんは寮で そこで助けてくれたのが乃梨子の代わりに応対してくれている周坊院奏という生徒だった。 特徴的なのはその頭についてるリボンと…。 「そうでもありませんよ。お姉さま方にはいつも迷惑ばかりかけて笑われてばかりなのですよ」 その「ですよ」という特徴的な語尾である。 「笑いかけて下さるのならいいじゃありませんか」 白薔薇さまと同じように寮に住んでいて、一般の生徒には知る事ができない憧れの白薔薇さまの寮生活を語り、乃梨子への追求をそらしてくれたので助かっている。 奏さんに礼を言ってから話を切り上げて帰ろうかと思った時、 異様な上級生が放課後の教室に入ってきて…またか…と言いたくなってしまった。 一瞬、大きなコケシ人形が現れたかと思ってしまった。 色白の肌に…整えられた長い髪。 乃梨子と顔の部品が似ているし美人と呼べる容姿だけど、決定的に表情というものが欠けている。 「あら小鳥遊圭(たかなしけい)さま、一体どのような御用ですか?」 中等部からリリアンにいる、上級生の事にもくわしい瞳子さんが丁寧に応対している。 「小鳥遊圭(たかなしけい)…演劇部の部長…演劇部部員獲得のため一年生をスカウト中」 そして、表情と同じくやる気のなさそうな声で答える圭さま…。 自分で演劇部の部長と言って自分の状態を解説するあたり、本当に演劇の素養がありそうです…。 「部長、手伝いましょうか?」 「瞳子は欲情のおもむくままに薔薇の館のところへ行くがいいわ」 なぜかあからさまに「げっ」っていう表情をする瞳子…つまり、紅薔薇さまの所に行きたかったけど社交辞令で演劇部の部長か乃梨子達に付き合おうとしてたという事かな? 乃梨子自身は薔薇の館ははっきり言って進入禁止区域のようなものだ。 あの白薔薇さまみたいなのが三人いると思うと裁判所のようなものを連想してしまう。 「いいんですか?演劇部は勧誘に忙しいのでは?」 「入部するのが確定している上に、すでに輝いている瞳子に用はないわ。 私が探しているのは一見何の価値もなさそうで磨けば輝くダイヤの原石… だから周坊院奏、私についてきなさい」 「え?私ですか?」 勧誘するのは構いませんがあからさまに自分の思ったことを言うのはやめたほうがいいと思います。 「そういう訳で風除け用の奏はもらっていくわ乃梨子。 図書室で時間をつぶし人目を避けて帰るがいい。 運がよければ勉強熱心な我が部の主演女優に会えるかもね」 「え…ちょっと…はやや〜」 ヘンな人が、変な声をあげる奏さんを引っ張っていく。 …色々突っ込みたいところはあるけど、人目を避けるべしとの忠告はありがたく受け取ってみよう。 図書室は、静寂こそ美徳とする場所。 確かに、ここで芸能レポーターじみた追及をしてくる不届き者などいようはずもない。 そもそも私は、他の人とは違う。 特徴のある制服も、校門でマリア様を拝む事も、これから体験するだろう多くの行事も習慣も合いそうにない。 仏像鑑賞に出かけた日に雪で電車が止まらなければ、こんな所にはいなかったのに…。 登校初日に図書室の参考書を見積もりに来るような乃梨子は今年度新たにリリアンに籍を置くようになった生徒の中で一番薔薇などにふさわしくないだろう…。 そんな事を思いながら周りを見回すと。 静寂の中、参考書がしきつめられた棚のそばで黙々と… その人が手を動かしているのが見えた。 白薔薇さまとは全く逆の意味で綺麗な人。 映画女優もかくやと思わせる豪奢な金髪、整った顔立ち、『お城のお姫さま』という言葉がぴったり当てはまるその外見…。 『勉強熱心な演劇部の主演女優』…一目でそうわかってしまうほど印象が強い人だった。 天候のせいとはいえ受験に失敗した身としては参考書の棚を把握しておきたいので、その特徴的な生徒の後ろに並んだ棚を見ていくけど、その棚はすごく不便だった。 棚に収まる量をはるかに超える量の参考書がぎっしりと詰め込まれている上に教科別に分けられてない。 リリアン女学園には受験生が少ないというのは本当だったみたい。 試しに一冊の本を手にとって引っ張ってみると、無理に詰め込まれた数冊の本を巻き込んで落とし、乾いた音を静かな図書室に響かせてしまった。 「あなた、この本はお姉さま方から託されたものです、これからは大事になさい」 そして、聞きつけて注意してくる女優みたいな生徒。 その強い意志を宿した目に見つめられ…さっきの『お城のお姫様』の表現に『勝ち気な』という言葉をつけたくなる。 美人が不機嫌なのって本当に怖いなあ…。 「堅苦しい注意はここまでにして、私でよければ探すのを手伝いましょうか?」 あれ、その頑固で融通が利かなさそうな外見とは裏腹に態度を一変させて乃梨子を手伝おうとしてくるのには意外。 「いいんですか?」 「この時期に参考書の棚を調べる新入生なんてそうそういませんし、私は図書委員ですから。 まるで演劇部部長が書いた台本のような嬉しい偶然は利用しない手はありませんからね」 どうやら演劇部の主演女優と部長さんは本気で分かり合っているらしい。 「それに、私もこの棚の本を覚えるまで苦労したのものですから」 更にとんでもない努力家…普通はこんな乱雑で多量の本の配置を覚えません。 感謝しながら厳島貴子と名乗った親切な生徒と一緒に落としてしまった本を拾っていると、三人の上級生が参考書の棚のところへやってきた。 目の前の女優みたいな生徒には劣るけど、三人ともそれぞれの特色が現れている美人だ。 頭が痛い、何なんだこの学園。 まともな一般庶民と呼べる人はいないのだろうか。 「貴子、もう一年生に手を出すなんて、意外と手が早いのね」 「お姉さまがそれを言うのですか?」 三人の一人はこの厳島貴子さんの姉らしい。 「私の手が早いと言うの? 誤解しないで、私は確実に射止めるまで遠くから罠を張るタイプよ」 それはいばって言う所と違います。 「参りました…この本を使いやすく並べ替えられないものでしょうか」 「瑞穂さん。なにか不便でも?」 乃梨子が言いたたかった事を言ったのは、栗色の髪のきれいな生徒、瑞穂さんと呼ばれている。 「教科や傾向が揃えられていません。 おまけに学習指導要領に含まれない物まで… これでは欲しい物を見つけるのに時間がかかりそうですね」 「盲点でした…使う人があまりにも少ないので」 「この参考書は過去に卒業していったお姉さま方が残したものです。年代・持ち主の順に並べられているのです。必要以上に手を触れる事には反対です」 「そういう貴子さんは。参考書を取り扱い易くしたいと思わないんですか」 そう言うのはいかにも上級生のお嬢さまという印象を与えてくる背の高い女性。 「え…そ…そうですね、場所を変えたいか変えたくないかといわれればすごく難しい問題になるのですが…」 「貴子はめぼしい参考書を十五冊、取り出しやすい所に配置しています。 図書委員特権という感じですわ」 やっぱりそういうことしてたんですね…このお姫さまは…十五冊も自分用にとっておくなんてあきれるのを通り越して感心します。 「おおお姉さま………! ……は…配置自体に罪はありません。 私が問題視しているのは山百合会の薔薇さま方も多く寄付して下さったものを役に立たないからといって軽視することであってですね… そもそも、この棚全てを整理し直すには相当の手間と人員と知識が必要とされます」 …単に頑固なだけでなく、規律を守る人なんだ。 人はそれを堅物で融通が利かないと言うのであるが…。 「だったら、人員をできる限り集めて明日にでもやっちゃいましょう…今夜にでも電話して図書委員全員はもちろん、可能な限りのボランティアを集めて…」 どうやらやる気の貴子さんのお姉さま。 「お姉さま…そんな急に…」 「できない…なんて返事はないわよね。 私達は図書委員で新しく入った人達の本を扱いやすいようにして欲しいという要望があるのよ。 加えてあなたは私が選んだ最高の妹…私が必要と判断した事を、あなたはできないと首を振るの?」 「…できます。そこまでおっしゃるならお姉さまの期待に応えて見せますとも。 しかし、人数をそろえる事ができても選定できる知識を持った人はなかなか見つからないかと…」 一変してやる気を見せたなぜか嬉しそうな貴子さん…『私が選んだ最高の妹』というのは貴子さんへの最高の殺し文句らしい。 「その事については大丈夫、ここに二人。適任者がいるわ。 去年の紅薔薇さまに並ぶ成績でいらっしゃった十条紫苑さまと、評判の宮小路瑞穂さんよ」 十条紫苑と宮小路瑞穂いかにもお嬢さまといった感じの三年生二人は協力を約束し。 「そういう訳で…あなたも手伝ってもらえるかしら、乃梨子ちゃん」 なぜかこちらの名前を知ってる図書委員に呼ばれて、乃梨子も次の日の放課後に参加する事になった。 あとがき おとボク本編と同様、寮に住む周坊院奏ちゃん…ちょっとだけ登場。 小鳥遊圭(たかなしけい)さまもリリアンにて演劇部部長をやっています。 奏ちゃんの「ですよ〜」はリリアンらしくないという理由で下方修正をしましたが私の趣味に偏らせていいのか二次創作…お願いだから今更なんて言わないで〜。 そして演劇部主演女優という設定変更がなされた厳島貴子さん…図書委員のあの人の妹となっておりますが…最も注目すべきはあの人達。 ようし!出会ったぞ!みたいな異常な興奮に包まれてる園樹でした… そしてテンションが下がった後に後悔するのはデフォルトです…いいのかこれで… |