密会・白薔薇さまの好みって?


もう何回目になるかわからない桜吹雪の舞う中での待ち合わせ。
普段なら絶好の気分になるはずの時間なのに、乃梨子は気分が沈んでいるのに気付いた。


これも、志摩子さんからもらった数珠をなくしてしまったからだ。
大事に鞄の底に入れておいたんだから、落としたなんて事はないだろう。
とすると…どこかの不届き者が鞄の中から奪ったとしか考えられない。



そんな嫌な気分でいつもの場所…桜の木の下で待っていると、状態が乃梨子と正反対…喜びを押し包んだ表情で志摩子さんが現れた。


「ごきげんよう志摩子さん、何かいいことでもありました?」
「あら、わかるのかしら…実は久しぶりにお姉さまと話をしたの。
 お姉さまは乃梨子と話したのが楽しかったとおっしゃってたわ」

なんかあの栞さんと話して嬉しいと言うのは複雑。
それとやっぱり変態じゃないのあの人…、人に自分の過去のとんでもない失敗を知られて楽しいなんてまともな感性の持ち主とも思えない…。



「志摩子さんには悪いけど…あの人ヘンじゃありません?」
「どうして?」
「誰だって人に話したくない過去があるはずなのに栞さんは平然と話したんですよ…佐藤聖という人と栞さんの関係まで…」
「そこまでお話になったなんて、きっと乃梨子は気に入られたのね」

やめて欲しい…あの時は「そんなとこで笑うな」と何度言っても言い足りないような笑みを向けられだけでぞっとする。




「言い方が悪かったかしら。乃梨子がお姉さまにとって機会だからよ」
「機会って…物みたいにあつかわれていい気はしません」


「あ…乃梨子は知らないのね。あの方は予測できない偶然は何でも主イエスさまがお与えになった機会だと判断するの」

どこまで現実離れしているんだろうあの人。
つまり、志摩子さんの家を訪れる時にファーストフードで遭遇した事も与えられた機会だと考えてるのだろうか。




「普通の人の考えとは大きく違ったものだけど仕方ないのよ。
 お姉さまは交通事故で両親を亡くされた。
 あの方が生きていくためにはそんな考えにすがるしかなかったの」

じゃあ、あの非人間的でさえある異様で穏やかな表情は信じる事によってできた仮面で、それが外れたときには…素の栞さんが現れたりするのだろうか?

できればそれは見ずに済ませたい。



この年で二人の親を両方とも亡くした人がどんな心境になるか…想像することさえできない。
その表情がどれだけ悲痛で不安に満ちているかを考えるとぞっとする。

たった一人で人知れず涙を流す栞さんが思い浮かんでそれがあまりにも現実味を帯びている。



そんな考えが顔に出てしまっていたのだろうか。

「乃梨子も栞さまが好きなのね」

どうやら、志摩子さんを心配させるほど情けない表情を見られてしまっていたみたい。




「…そんなこと…ないとは言えませんけど…ところで私の事以外で栞さんは何を言ったんです?」
あわてて話題転換。

「…それ以外ではお姉さまは私に新入生歓迎会に顔を出してと頼んできたわ。
 なかなか面白い台本になっているし、例年にはない三年生に編入した方がおられるわ。
 新入生全員に混じってたった一人三年生が混じることになるらしいの。
 お楽しみにするべきだからあまり内容をいえないけど、前半はコメディになるらしいわ」



そんな秘密事項をもらしてしまうなんて、やっぱり志摩子さんは舞い上がってる。

そして、あんまり志摩子さんが楽しそうだったので、数珠がなくなったことを言うのを忘れてしまった。







あとがき

み…短い。
このタイムテーブル方式の弱点に長さの微調整が難しいことがあります…

このシーンは丸々カット予定でしたが、クライマックスシーンへの流れにおいてどうしても必要だったので仕方なく…

ああ…難しいな栞さんは…。
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