裏工作・完了


「こんなスクープがありながら私に教えないなんて、どういうこと?真美?」

放課後の新聞部でつめよるのは、妹のメモを無断で観察したヒトとは思えない態度で迫る引退前の新聞部部長、築山三奈子。



「お姉さまに教えない事が、御門さまの協力の条件でした。
 それにこの事は軽々しく公開するのはためらわれます…」

対するは姉と対照的…あきれるのも慣れたといった感じで冷静に対応する山口真美。



「ネタは新鮮さが命なのよ。
 このメモが本当ならもう二日もたっているのにそれでも印刷どころか原稿も書いてないなんて、新聞部にあるまじき失態よ」

「イエローローズ事件もです」

真美の静かだけどきつい言葉に黙り込む築山三奈子。



「三奈子。相変わらず妹の方が強いわね」

妹に口論して負けそうな三奈子にあきれながらも同情してみる。


「御門さんも、どうして私に言ってくれなかったのよ?」

で、矛先がこっちに向くのもわかっていたんだけどね。


「こんなデリケートな話題を考えなく号外にしそうな人に教えるのが間違い。
 あなたの妹じゃないけど、イエローローズ事件の事を考えてみなさい。
 あの後インパクトのある穏便なネタを書きたいって泣きついてきたのは三奈子だったじゃん」

そして、ミステリーのアンケートというアイデアを提供してあげたのだからもっと感謝していいと思うんだけど…。


「そんな窮地の私を利用してリリアン七不思議の中に宮小路瑞穂の名を入れたのね」

それぐらいやっても罰は当たらないと思ったけど、どうやらまだ根に持っているらしい。


「お姉さまは
 『うん、これは七不思議に入れてもいいわね。
  一番と二番以外の怪談はそんなに知れ渡っていない小ネタだから困ってたの。
  よく見つけてくれた。ありがとう、恩に着るわ』
 と嬉々として七番の記事を書いたと記憶しています…」

と姉に全く容赦なくトドメをさすと、三奈子のそばから自分のメモを取り上げて山口真美は部室を出ようとする。

「ちょっと…どこへ行くの?」

「これから取材がありますので失礼します」

「こ…こら。私も連れて行きなさい」


対照的な姉妹にあきれ、隣のカメラちゃんが合流するのを横目に見ながら、
二日前と同じように…ただし一人トラブルメーカーを加えて道場に向かう事にした。












「げ…」
「うわ…」


道場に行くと、異様な雰囲気に包まれてた。

防具をつけ、二人一組で実戦形式の稽古をしているのは剣道部に良くある風景である。

通常、五分ほどで組む相手を交代するのが普通であるが…だがなぜか組む相手がいつまでたっても変わらない。

指示を飛ばす激励も、指導のための会話もなく。
ただ竹刀の打ち合う音だけが響いている。



「なんなの、あの二人…」

そんな中、中央の一組だけが熱に浮かされたように打ち合っている。

一人の防具には支倉令と書かれているが、もう片方の防具には名前がない。
だから異様だ。
名前の書かれていない共用の貸し防具は体験入部の人のためのもの、仮入部の人間に本格的な打ち合いなどさせるものではない…



「もう一人は瑞穂さまです」

前の部活も観察していた真美が三奈子に教える。


令が踏み込み連続で打ち込む。
間髪を入れない鮮やかな連撃を瑞穂はさばき続け防御に徹しているが、とても熟練者の攻勢にはかなわない。
後退し、追い詰められてゆき、何度かは痛烈な一本打を受けた。

でも、わずかな隙をついて反撃し、その度に令は後退を余儀なくされる。

明らかに令が優勢だけど、互いに余裕が全くない。




「ああ。本気になっちゃったか…」

他の事に気を散らしている余裕なんてないので、周りのことなんて全く目に入ってない。

そんな従姉妹を見たことはあるけど、まさか令までそんな風になるとは思わなかった。

由乃ちゃんにべったりで気が散る事を懸念していた令にとっていい傾向なのだけど…リリアン学園でやっていい事とは思えない。


それとも令は瑞穂が性別をだましていた事を怒ってムキになってるのだろうか?





踏み込む令に対し、瑞穂が鮮やかに突きで合わせる。

反応しきれずに喉を突かれて後退する令。
しかし…間髪も入れず弾かれたように、気合とともに踏み込んで逆襲し追い詰めていく。




「楽しんでるな…」

御門まりやが上岡由佳里を鍛えるみたいに、気の置けない相手を鍛える事の楽しさを知ってもらいたかった。
それは実現したらしい。

そして、黄薔薇さまはどうやら。宮小路瑞穂の味方で居てくれるみたいだった。










結局、叩かれまくった瑞穂ちゃんが降参して初めて部活の時間が残りわずかになっている事に黄薔薇さまは気付く。

相変わらず抜けていると思ったけど、面を取った時の満ち足りた表情はここ数日の沈んだ令とは別人みたい。



面を取った瞬間の二人の写真を手に入れて舞い上がる武嶋蔦子を連れて道場を後にした。


「どういう記事にしてやろうかしら…」

「黄薔薇革命の時みたいに騒がせるおつもりですか?
 ただ単に黄薔薇のつぼみが入部して、編入生と紫苑さま達がその手伝いをした…というだけの話です」

早速、新聞部姉妹がこれからの編纂について語り始めてる。

「分かってないわね真美…今のはもっと面白い記事にできるわ。
 『謎の編入生と黄薔薇さまの剣で語り合う友情に嫉妬する黄薔薇のつぼみの図』とか」

「憶測で書かないでください。白薔薇さまにまた脅されますよ」

それはそれで面白いかもしれないけど、裏工作の真の目的はこの時期に瑞穂ちゃんの美談を宣伝してもらう事なのでそういうのはよくない。


「瑞穂ちゃんの事なら教えたげるからあんまり悪評を書かないでよ。
 やっとリリアンに慣れてきたところなんだから」


まあ、さっきの道場の鍛錬は調子に乗りすぎてると思うけど…。
ひょっとしたら実は瑞穂ちゃんもストレスたまり気味なのかもしれない。


でもこれで、選挙に向けて有利に事を運べるのは確実みたいだ。




あとがき

御門まりや視点で、道場見学。
次の話の展開に持っていくためにいくつかのシーンで無理を通しましたがなんとか終わらせる事ができた…。


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