裏工作・開始 「今度は何の用ですか御門さま」 予測していた事だけど、新聞部の部室に入るとそんなトゲのある声に迎えられた。 警戒と疑いの表情まるだしで応対してきたのは新聞部の次期部長…山口真美である。 まあ、ミステリー7番で瑞穂ちゃんを新聞に表示するという暴挙をやってのけた前科があるからこんな風ににらまれるのも当然と言えなくもないんだけど。 この子は上級生にあまり遠慮がない…築山三奈子も苦労してるんだな。 「今、なんか失礼な事を考えませんでしたか?」 しかも鋭いし…。 ここは率直に交渉のカードを出しておこう。 「いいのかな、そんな事言って…なかなか面白いスクープを見つけられそうなのに」 「あなたに振り回された記憶も新しいので、信用するわけにはいきません」 「そう?昨日作法室で支倉令があたし達に泣きついてきた事を教えてあげようと思ったのに… 由乃ちゃんが剣道部に入部する事に関して悩んでいたわね黄薔薇さまは」 途端、さっきまでのうっとうしい来訪者を見る眼から貴重な情報提供者を扱う態度に変わる。 こういう所、結構似てるんじゃないの三奈子と真美ちゃんって…。 「その時の情景は後でゆっくり教えるとして、今は剣道部の部活に行く事を優先すべきよ」 そう言って、新聞部の部室を出ると案の定あわててついてきた。 …やった、エサに食いついてきた。 「何だかお姉さまみたいに乗せられている気がしますが…信用しましょう」 「ええ、まりやさまは誤解を与える表現を多用しますがウソはつきませんから」 そんな事を言いながら、隣の部室から出てきたのは写真部のカメラおたく…武嶋蔦子。 この子には、陸上部のランニングフォームを録画する際に手伝ってもらった関係でなじみがある。 動画は本人の領分ではないらしく本人はあまり乗り気ではないみたい。 でも陸上部競技をたしなむ乙女達の写真を交換条件にすると結構引き受けてくれるし、まりやも気に入った自分の写真をもらった事がある。 「話が早くて助かるわね蔦子」 「お褒めに預かり光栄ですわ。撮影の機会をいただけるんですね」 どうやらこの子と性格が合うらしく、以心伝心といった感じになっている。 けど…隣の部室から新聞部の会話を盗み聞きしたとしか思えないタイミングで全く引け目を感じさせずに出てくるこの子は何様なんだろうか…。 道場に行く途中に三人で隠れて待ち構えていると予想通り、紫苑さまと由乃ちゃんを連れた瑞穂ちゃんがやって来た。 制服・体操着・袴に道着という三人の異様な服装に、連れの二人が大喜びしたのは言うまでもない。 「紫苑さまと道着姿の瑞穂さまに連れられる黄薔薇のつぼみの図…絵になってる。 特にあの瑞穂さまの道着姿はレアであんなのはリリアンでもなかなかお目にかかれないわ」 「合気道着よ、剣道着とあんまり差はないけどね」 「紺色の袴姿の上に白い道着のコラボレーション。 華がありながら華美でもなく。清楚さを引き出す日本が生み出した文化の極みね…」 盗撮まがいにシャッターを切るカメラちゃんにあきれながら、解説をしてやる。 でも、いきなり武嶋蔦子はカメラから目を離した。 「いや…そんなはずないか…」 「どうしたの?」 「なんか心なしか禍々しい感じがした気がします…あの人を写真にとってはいけないような気が…」 そういえばこの子は女の子しか写真にとらないんだっけ、意外とスルドイな。 「困りますよ蔦子さん、写真があるかないかでは反響が違います」 「築山美奈子もその事はわかっていたわね。イエローローズ事件だったかしら。」 話題をそらす…瑞穂ちゃんの事がばれる危険は最小限に抑えないと。 瑞穂ちゃんのイメージアップのためとはいえ、結構危ない橋を渡っていることに今更気がついた。 「ええ、そうね。私もシークレットレアな瑞穂さまをアルバムに入れたいし…」 欲望って単純なんだな。 「体力ありますね、瑞穂さまは」 「そりゃそうよ。、他にも合気道とか長刀とかやってるし」 「そこのところ、詳しく聞かせてくださいね。御門さま」 後をつけたあげく、道場の入口で中の練習風景を覗き見する不審者が三名。 何人かの剣道部員も気付いているようだけど、もう慣れっこになっているのか注意する部員はいない。 「しかし、由乃さん…体力ないのに無理しちゃって。 写真に収めるのはいいけど痛い感じがして公開する気にならないわ」 「そうね、黄薔薇さまが入部に反対するのもわかる気がする」 「でも、隣の紫苑さまはいい感じ。道着姿の生徒に混じってたった一人制服…しかもあんな風に側にいて励ましているなんて。まるでスールみたい…」 「紫苑さまは去年。全校生徒のお姉さまになるはずだったから、当然といえなくないかもね」 紫苑さまもかわいそうに、非公認ながらエルダースールに選ばれた直後に長期入院して留年してしまうなんて。 最近はお茶目に男と知って瑞穂ちゃんに構っているけど、その前は… 「あんなに元気になった紫苑さまを撮れたのは嬉しい誤算ね」 「何かあったんでしょうか、紫苑さま」 それが瑞穂ちゃんに関わったからなんて知ってるのは、今の時点で支倉令と御門まりやぐらいだろう。 「そろそろ退散した方がいいわね。これ以上邪魔するのはさすがに迷惑だし…」 こうして、一日目の観察は終わった。 あとがき まりやルート…ストーカーをするの巻。 おとボクを知らない人置いてけぼりだなあ… |