不満で元気な黄薔薇のつぼみ





「由佳里ちゃんは相変わらずハンバーグなのね。」
「はい、大好きですから」

朝の授業も終わり、今は昼食時である。

紫苑さんとまりやに誘われて食堂に行くと、まりやの妹の由佳里ちゃんとも待ち合わせていたので四人で食べ始めた。



「それに体育会系はスタミナ必須ですから沢山食べて体力つけないといけないんです」

体重が気になる年頃だと思っていたけど、どうやら体力の心配のほうが勝っているらしい。
それにまりやと由佳里ちゃんは走っているせいか食べる量の割に細いのである。



「体育会系といえば令はどうして欠席してんの?
 今日は令のためにも妹の由乃ちゃんのためにも大事な日になるはずだったのに…」


二日前の作法室での相談が思い出される。
令さんはあの時決心したのだから問題は一応あれで決着したはずなんだけど。

午前中、いつも隣で授業を受けていてリリアンに不慣れな瑞穂の世話をしてくれる令さんが朝の間いなかったのには戸惑った…。




「緋紗子先生によると体調を崩したとの事です。本当に間の悪い」

同じ三年菊組の紫苑さんがまりやに説明する。



「令さんはもう由乃ちゃんを入部させることを決心したのですから、予定が数日延びただけです。
 令さんは人の前で決意したことを後になって曲げるほど弱くはありませんわ」



「そのことを見越しての激励でしたか。
 似た事をしていた人同士、令さんと瑞穂さんは気が合うのかもしれませんわね」

紫苑さんその意味深な笑みはやめてください。
それは武道をたしなんでいる者同志という意味ではなく、外見と内面が逆の者同志という意味なんですね?








「宮小路瑞穂さま…どういうことですか?」

突然聞きなれない声がしたので振り向くと、そこには三つ編みの見覚えのある生徒がこちらをにらみつけていた。


確か支倉令さんの妹の…島津由乃ちゃんだったかな?



「ごきげんよう。私に何か用かしら?」

なぜか『あなたが気に入りません』という雰囲気丸出しだったけどとにかく用件を聞いてみよう。




「どうしてあなたが令ちゃ…お姉さまの考えを知ってるんですか?私にだって聞いてないのに!」

なんか憤激のあまり言ってる事がヘンな気がする…。



「先週の週末に令さんにあなたの事を相談されました。
 そして私達はあなたが望むなら剣道部に入部させるべきと主張し、令さんもそれを承諾したのですよ。
 令さんから聞いてないんですか?」

そしていつも通り頼りになるのは紫苑さん。
ご立腹の由乃ちゃんに、いかにもお姉さまといった態度で冷静に対応してくれた。



「聞くも何も、お姉さまは金曜日から全く口を利いてくれません!」

すごいな由乃ちゃん。
こんな公衆の面前で、紫苑さんを含む上級生三人相手に非難丸出しで不満をぶつけてくるなんて…。


令さんが手を焼くのもわかる気がする。


おそらく、黄薔薇さまの態度が変わったのは瑞穂たちのせいだと思っているということだろう。
そしてその主張は誤解を含んでいるけれど間違っていない。




「だとすると令は何かの理由で由乃ちゃんに方針を告げられなかったのね」



多分、令さんは不安なんだろう。

その原因は妹にある気がするけど…確かにその気持ちはわかる。
もし、鍛錬中の自分を見られてしまったら嫌われるんじゃないかと心配になっている。



まあ…それは姉妹の性格があまりに開きすぎてる事による問題なので、誰が悪いというわけでもないのだろうけど。




仕方がない、これまで何度も世話になったお礼に令さんの背中を一押ししてあげよう。



「それなら要望にこたえてあげる。
 今日の放課後に一緒に剣道場に行きましょう。体操着に着替えて来なさい」

「はい?」



瑞穂の言葉がよほど意外だったのか、由乃ちゃんはいぶかしむような表情をしてる。



「体育会系の部は、体験入部を歓迎するものよ。
 正式な入部となると抵抗を示されるでしょうけど、 私達が口ぞえした上での仮入部なら大丈夫でしょう。
 …それに、久しぶりに竹刀を手にするのもいいでしょう」



言い出したからには、危険を回避するための最大限の事はやらないと。








 あとがき
瑞穂さま、由乃さんと遭遇するの巻。

書いてしまって奏ちゃんを登場させるのを忘れる…けど登場させる意味がないのでカット…。

困った時の紫苑さん頼み…もっと瑞穂さまの魅力を押し出せないものか…。



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