やっぱりヘンな令ちゃん



「恥ずかしい話だけど、指摘されただけでも四回。由乃が気になってよそ見してしまった…」

二人そろって部活を無事に終えた帰り道、令ちゃんはそんな事を話してきた。



「やっぱり、私は令ちゃんにとって邪魔でしかないのかな?」

恐る恐る聞いてみる。
昨日も考えたことだけど、そろそろ姉を困ら続けるのもどうかと思えてきた。



でも、返答は意外だった。


「私なんかより由乃のほうが頼もしいって瑞穂さんに言われたけど、その通りだと思ったの。
 あんな…必死な由乃に比べたら。今まで当たり前にやってきた事もできなくなってしまう私はなんて小さいんだなって…」



紫苑さまや田沼ちさとさんに励まされてようやく今日の部活を乗り切れたのだけれど、黄薔薇さまはどうやらそれ以上に情けない状態だったらしい。

でも、同時に「頼もしい」と言われたその言葉が嬉しかった。




「あと、あの秘密を全く表に出さずに私に挑んでくる瑞穂さんも羨ましかった。
 自分にはないものに憧れると言うけれど、二人みたいにがんばりたいって思ったら。
 周りのものが全く気にならなくなった」



由乃のことが気になって集中できないという支倉令の悩みはなくなったのは良かった。


しかし…




「それで、他の部員への指導を忘れちゃったわけ?」



剣道部の部長が歯医者でいなかったので支倉令が指導をするはずだったのに、指導役のこの人は瑞穂さまと打ち合うことに夢中になって全く周りのことなんて見ていなかったらしい。

剣道部員が声をかけようとしていたけどいつもと違う様子の支倉令に遠慮してしまったせいで、結局後半はずっと同じ人と打ち合いをする事になってしまった。




「あんな鬼気迫るといった感じの令ちゃん、初めて見た。
 なんかヘンに楽しんでいた感じだったけど…」


「道場の入口で覗き見していた御門さんがどうして瑞穂さんの秘密を教えたのか分かる気がするよ。
 御門さんが上岡由佳里ちゃんを鍛えるみたいに、誰かを鍛える事が楽しいって事を教えたかったんだと思う」



確かに、瑞穂さまは令ちゃん以上に予想外のことをした。

剣道部のエース相手に押されながらも的確にさばき続け、四本に一本は取れるぐらいの奮闘を演じてみせたのだ。


前の部活で全く疲れを見せなかったからただ者じゃないとは思っていたけど、そこまで熟練しているとなると何か込み入った事情でもあるのだろう。


最後の方なんか、みんな二人に注目して自分達の鍛錬を忘れてしまってた。
面を着けてる多くの部員の表情は分からなかったけど、たぶん田沼ちさとさんのように困った表情をしていたに違いない。





「本当の事言うとね。
 私はただ令ちゃんに反対されたからものの弾みで入部してしまって、目的なんて持ってなかった。
 ただ、あきらめたら負けって感じがしたからあそこにいただけ…
 でも、打ち合っている令ちゃんと瑞穂さまを見てあんな風に並べるのならすごく楽しいだろうって考えてたの」


他の部員達も、二人の鍛錬を止めるのがもったいないような気がしたからだろう。




「だから、いつの日か私が竹刀を持てるようになったら…私の相手…してくれるかな?」


「今日の様子を見る限りだと、そう遠い日の事じゃないね。期待して待ってるわ」

その返事に、やっと入部する事を承知してくれたと実感できてほっとした。





「ところで、瑞穂さまは一体どういうお方なの?紫苑さま以上に普通じゃないみたいだけど」

「あの人の話はしないで…あの人とは必要以上に関わりたくない」

意外な反応だ。
どうして瑞穂さまの事となると令ちゃんはこうなるんだろう。
長い付き合いだけど、こんな風にあからさまに嫌悪を表すなんてほとんどなかった事なのに…。


そんな由乃の疑問を見抜いたのか、更にヘンな事を言った。




「こんな事言うのはおかしいと思うかもしれないけど…
 まかり間違うと、惚れてしまうかもしれないから」




性格…変わったんじゃないの…令ちゃん。

…瑞穂さまは令ちゃんにただならぬ影響を与えてしまったようだった。





あとがき

道場での戦闘シーンといい、その他色々な所といい。私の趣味丸出しだ…。
男三日顔を合わさざれば筈目して見よとは言いますが…この令さま変わりすぎ…

最後のセリフはついカッとなってやった。今は反省してる…



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