編入生の提案




「『やってもいいかな』なんて甘い考えで入部されちゃ、迷惑なの」

この姉らしからぬ発言に衝動的にロザリオを突っ返しそうになった末、令ちゃんの意思に反して剣道部に入部してやろうかという週末の計画は思わぬ妨害の連続により失敗。




憂鬱な日曜日を過ごした後、いつも一緒に登校していたのにここ最近口を聞いてくれないお姉さまは待ち合わせ場所にやって来なくて一人でイライラしながら登校。


祐巳さんと偶然出会って心配されるし、授業中も気分が沈んだまま。








そんな最悪の気分で…先週から最悪だけど…どうしてくれようかと考えながら食堂で昼食をとっていると、

由乃の気分と対照的…幸せそうにハンバーグ定食なんか食べてる瑞穂さま達を発見した。


さらに対照的な事に…健康を絵に描いたような御門さまと上岡由佳里さんの陸上部姉妹を見てしまったので、
由乃の限界度、プラス100。




「体育会系といえば令はどうして欠席してんの?
 今日は令のためにも妹の由乃ちゃんのためにも大事な日になるはずだったのに…」

そして…なんか御門さまが聞き流せないようなことをおっしゃった。




「緋紗子先生によると体調を崩したとの事です。本当に間の悪い」

紫苑さまの言葉にほっとする。
じゃあ、待ち合わせ場所に来なかったのは絶好の言い渡しじゃなかったんだ。



「令さんはもう由乃ちゃんを入部させることを決心したのですから、予定が数日延びただけです。
 令さんは人の前で決意したことを後になって曲げるほど弱くはありませんわ」



え…?
何を言ってるのこの編入生は?



「そのことを見越しての激励でしたか。
 似た事をしていた人同士、令さんと瑞穂さんは気が合うのかもしれませんわね」



訳がわからないけど…。
紫苑さまのおっしゃってる、『令ちゃんと瑞穂さまの気が合う』というのは間違っていないと思うので更に由乃のイライラをあおってくる。


そういえば、瑞穂さまには前から問い詰めたいことがあった…






編入してきた新参者のくせに、三年菊組の教室で令ちゃんの隣の席にすわっている。

それだけなら別に文句はないのだが令ちゃんの馬鹿はリリアンに不慣れな瑞穂さまに気を配っていて、瑞穂さまは当たり前のようにそのお世話になっている。

更に完璧美少年に見える令ちゃんと、栗色の美しい髪に端正な顔立ち…明るい感じの美人と認めきゃならない宮小路瑞穂さまが仲良く話している姿を見ると…。


服装を除けばお似合いカップルのようにしか見えないのである。



極めつけは令ちゃんの態度。
長年付き添ってきた由乃だからわかるけれど、瑞穂さまと話している間はものすごくご機嫌なのである。






妹としてこれを問い詰めずにいられようか…いや、志摩子さんは御門まりやさまを問い詰めたりしないけどあっちとは事情が違う…そうなのだ、違うに決まってる。






「宮小路瑞穂さま…どういうことですか?」

こっちを見た瑞穂さま…うわ…この人間近で見るととても綺麗……って違う。
私は戦争に来たんだった、遠慮はいらない。



剣士のごとく殺気のこもっていそうな目でにらみつけてやると
端正な顔に困ったような表情が表れたけど



「ごきげんよう。私に何か用かしら?」


なんて優雅に見つめ返してくる。
面白くない。


「どうしてあなたが令ちゃ…お姉さまの考えを知ってるんですか?私にだって教えてないのに!」


問い詰めてやる。
これが令ちゃんなら反論の一つもできずに有利に話を運べるんだけど…。



「先週の週末に令さんにあなたの事を相談されました。
 そして私達はあなたが望むなら剣道部に入部させるべきと主張し、令さんもそれを承諾したのですよ。
 令さんから聞いてないんですか?」


やっぱり水野蓉子さまに匹敵するミス・パーフェクトこと十条紫苑さままで含んだ上級生相手には分が悪かったらしい。


でも、なぜか由乃の知らないところで話が進んでいたというのはますます許せない。
このお姉さま方も令ちゃんも…。





「聞くも何も、お姉さまは月曜日から全く口を利いてくれません!」



独断で入部してやろうと入部届けを出したのに…顧問の先生も保険の先生も剣道部の部長も、みんな令ちゃんの許可があるかどうか聞いてきて。


なぜか剣道部の部活をサボった令ちゃんを校内中探し回っても見つからず。
仕方なく家に帰っても全く連絡なし…。


おそらくあの日、由乃が血眼になって令ちゃんを探し回っている間。
校外の喫茶店でお茶でも飲みながら相談なりしていたのだろう。




「だとすると令は何かの理由で由乃ちゃんに方針を告げられなかったのね」



入部に同意したのならどうしてそれを本人に言わないのだ。
まるで令ちゃんが由乃の入部を一日でも先延ばしにしたいみたいだ。


「それなら要望にこたえてあげる。
 今日の放課後に一緒に剣道場に行きましょう。体操着に着替えて来なさい」

「はい?」



なんか意外なことをおっしゃる瑞穂さまに思わず祐巳さんみたいな返事をしてしまった。



「体育会系の部は、体験入部を歓迎するものよ。
 正式な入部となると抵抗を示されるでしょうけど
 私達が口ぞえした上で仮入部するなら文句は言われないわ。
 …それに、久しぶりに竹刀を手にするのもいいでしょう」


困ったことに…気に入らない瑞穂さまは由乃がしたいと思っていた事をすんなりと了承してくれたようだ。

でも…瑞穂さまも参加するという意味なのでしょうか?






あとがき

黄薔薇のつぼみ視点での問い詰めイベント。

黄薔薇注意報のけんか部分をダイジェストでやっていいのかという疑問を残しつつ先へ…。

由乃視点で書くのは楽しいけど、はっちゃけすぎると彼女のキャラを壊しかねないので慎重に…

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