エトワール誕生


保健室の先生は、紫苑さんの病状を知っているらしく適切に処置をしてくれた。

「ごめんなさい、柄にもなく熱くなってしまった、なんだか恥ずかしいわ」

その言葉に首を振るけれど、紫苑さんは弱々しく笑うだけだった。


「私を抱きかかえてここまで来るなんて…やっぱり瑞穂さんは……なのね」

保健室の先生の事を考えて言葉を伏せる紫苑さんは…こんな時にも他の人に気配りができる人なのか…。

「お願い、会場に戻って、あなたは本当にエトワールになるべき人間だと思うの…」
「でも…」

「私は大丈夫、それより私のせいでエトワールが決まらなかったら……私は…」


結局、紫苑さんは親友に与えられた去年度のエルダースールの最後の役割…エトワールスールの選出…も果たす事ができなかった。

これ以上紫苑さんの心残りを増やすわけにはいかない。

そう思い、瑞穂は保健室を後にする。







体育館に戻ると、耳を覆うほどの歓声に包まれた。

「な…何?」


「お帰りなさいませ。エトワールスール、宮小路瑞穂」


壇上から久保栞さんが拡声器で声をかけてくるのだけれどそれさえも聞こえにくい。

「でも祥子さんは…?」

「もう、そんなの一発で否決に決まってるじゃない!
 あんなかっこいい所をみせられちゃったら誰がなんて言ったって駄目よ!
 まったく、素で叫んで紫苑さまを抱いて走り出すんだもの…ばれちゃうかと思ったじゃない!」

「あ…」

しまった…つい熱くなって素を出してしまった…。

駆け寄ってきたまりやもかつて見ないほど興奮しきっていた。



「祥子さんは私が説き伏せました。
 結果、他の候補者全員が一位に票を譲渡…という形で今年度のエルダースールは宮小路瑞穂さんに決定です」

どうやら瑞穂がいない間に、栞さんが祥子さんを説き伏せたらしい。



「そんな堅苦しい事を言うまでもないでしょ。
 瑞穂さんもう全校生徒の憧れになってしまっているんだから」
と…黄薔薇さま。


「本当に…本当にイタリア行きを一年延期した甲斐があったというものよ」
これは蟹名静さん。


「さあ、『お姉さま』。就任の挨拶を…選んでくださったみんなに…」

何も言うまでもなく、ゆっくりと頭を下げる…瑞穂にはそれしかできなかった。


「まあ…長い間リリアンにいましたが…ここまで奥ゆかしいエルダーは一人しかいませんでしたよ」

学園長先生が遠い日を懐かしむように目を細めた。



「おめでとうございます。エトワールのお姉さま!」
「おめでとうございます、お姉さま!」







大歓声に応えていると、紅薔薇さまの姿が映った。

「失礼をしました、紅薔薇さま」

気まずいので、一応謝っておく。

「あなたがエルダーになったのは全生徒の意志。謝罪など必要ないわ…
 けれど、私は納得したわけでもありません…覚えておいて下さい。」

しかし、紅薔薇さまは更に深刻なようだった。
さっきのようにあからさまに敵意むき出しにして口論していた方がましなのかもしれない。

まるで、親に捨てられた子供のようなこの世の終わりのような表情をしばらく忘れられそうにない。


なぜそんな表情をするのか。

『悔しい』なんてものじゃない。
まるで全てが壊れて言っていくのを恐れているかのような…。






あとがき
ようやくエトワールスールに就任できた…。
…ですがこれからの伏線のために祥子さまをあんな風にしたのはマリみてファンに反発されそうな予感…。

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