暗躍会議



山百合会の関係で久保栞さんの部屋を訪れるついでに寄った事があるから、支倉令が寮の御門まりやさんの部屋を訪れるのは初めてではなかった。


でも、今の時点ではついでで隣の●の部屋を訪れる気にはとてもなれない。

もっとも瑞穂さんが●だなんて事、真相を知らされてもなお実感できなのだけれど…先程の食堂でも下級生達のお姉さまとしての貫禄は十分だった。



「私が来た理由はわかっているよね?」

「となりの部屋の瑞穂ちゃんの事とエトワールスール選挙の噂についてでしょ。どっちから話す?」

「山百合会の会議で選挙の噂が流れていた事が問題になったよ。
 私は黄薔薇さまとして、対策をしなくてはならなくなったの」


とりあえず薔薇さまとしての立場上、厳重注意をしておかなければならないのだけれども…そんなもの存在自体がトラブルメーカーの御門さんに効果があるとも思えない。

それに噂話の広がりやすいリリアンにおいて、一度噂が広まってしまえばその根源をたどる事は不可能だ。
噂の出所が寮生だという事も確かじゃないし、噂の内容から主犯は御門まりやさんに間違いないけど確かな証拠がない。

祥子の前では「責任を持って注意する」と言ったけど、御門まりやさんを糾弾する事はできないのである。



「どうせ祥子が騒ぎ立てたんでしょ。で…黄薔薇さまはどうするのかしら?
 瑞穂ちゃんの事をばらす?」


「それは現実的じゃない」


瑞穂さんは三年菊組に…正確には十条紫苑さまにとってなくてはならない存在になってしまっている。

水野蓉子さまに十条紫苑さまの事を頼むと言われたのもあるけれど、紫苑さまの事を考えれば瑞穂さんを留めておく必要がある。


「私が言いたいのはこれ以上騒ぎを大きくしないでほしいという事よ。
 これ以上の反則をすると瑞穂さんの当選が無効にされてしまうかもしれない」


その言葉にさすがの御門さんも驚いたみたいだった。

瑞穂さんが当選する事を前提にしている…つまり黄薔薇さまとしての職務も無視して協力するという事だから当然だろう。

支倉令自身、その変化に驚いているぐらいなのだから。



「瑞穂ちゃんの正体を知りながら協力するというの?」


「御門さんが瑞穂さんをエトワールにしたいと言う気持ちもわかるもの。
 私への黄薔薇さまへの票を瑞穂さんに回してあげる」


ああ…やってみて初めて分かるこの快感、暗躍ってこんなに楽しいなんて思いもしなかった。


「ありがとう。これでもう怖いもんなしよ…でもどういう心境の変化なのかしら?」

「御門さんと同じだと思う…あんなすばらしいオモチャがあるのなら…使わない手はないってね…」

その返事を聞いた御門まりやはお嬢さまらしからぬ不遜な表情を浮かべて手を差し出してきたけど…きっと自分も同じような表情なんだなと令は思いながら差し出された御門さんの手を取って握手する。


「これであたし達は同志と言うことでいいのかしら?」

「ええ…瑞穂さんを『みんなのお姉さまに』…あと選挙の後の事も考えておかないとね」

「じゃあ、ゆくゆくは紫苑さまも交えて。驚いたことにあの方は一発で見抜いてしまったのよ」

それは驚いた、あの瑞穂さんの女装を見破ってしまうなんて…紫苑さま、侮れない。

「紫苑さまといえば…御門さんに言っておかなければならない事があるの。
 実は私が瑞穂さんの事を秘密にしようと思ったのは―」


内容の濃い会議は、これから長く続きそうだった。





あとがき
令さまが…令さまが黒くなってしまいましたよお姉さま!

いやもう奥様驚きの黒さ…由乃さんでさえ引いてしまいかねないの青信号ぶり…以上、黒化した令さまでした…。


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