決行




朝に大きなハプニングがあったけど選挙当日は予定通りに進んでくれた。

全校生徒がそれぞれの教室で三年生の名前を書き、その後体育館に移動した。

三人の薔薇さまは壇上にいるけれど今回は脇役であり、司会は十条紫苑さまである。



「僭越ながら、昨年度の非公認のエルダースールだった…私、十条紫苑が進行を執り行わせていただきます」

エルダースールらしい事が何もできず…迷惑しかかけられなかったと嘆いていた紫苑さま。
水野蓉子さまに頼まれたのもあって…何とかしようと力を尽くしたけれど…紫苑さまはかえって心を閉ざしてしまっていた。


「第一次選考は得票率が少ない三年生から順に票を譲渡してゆく形で候補者を選んでいく事になっています…」

紫苑さまが壇上で選考のやり方を詳しく説明する。

多くのリリアンの生徒たちはわかっていないだろう。
それは紫苑さま自身が熟慮した末に決めた仕組みだという事を…。

エルダースールの役割を果たせるのだとしたら…今日この時、後継者となるエトワールスールを決める事だから。


「選挙管理委員会からの集計結果が出ました。
 一度目の譲渡が行われた段階での、得票率の発表です」

「一位、宮小路瑞穂さん。27%
 二位、蟹名静さん。 16%
 三位、―――」

一位の名前があがると体育館全体が歓声に包まれてしまうけれど、紫苑さまの澄んだ声はマイクで拡張されてちゃんと聞こえている。



「紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)、小笠原祥子さん。19%
 黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)、支倉令さん。14%
 白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)、久保栞さん。13%」



おおむね、予想通りだった。

票は少ない順に、三年生は自動的に票が譲渡され、候補が絞り込まれていくシステムになっている。
三年菊組のみんなが宮小路瑞穂さんを支持しているのだから、結果的に黄薔薇さまの令を除く三年菊組全員の得た票が瑞穂さんに回されるから当然の結果と言えるだろう。

同じような現象が蟹名静さんのクラスでも行われたみたいだけれど、やはり御門さんの裏工作や数々の衝撃的な宣伝にはおよばなかったみたい。




「よって規則どおり上位9名と薔薇さまによる譲渡に移りますので、檀上に上がってください。」

紫苑さまが進行係として次々に指示を出していく。


壇上に上がってきた瑞穂さんの方を見るとどうすべきか迷っているみたいだった。


気持ちはわかる、自分がエトワールにふさわしくないのにこんな事態になってしまって…本当は祥子あたりに票を譲渡して引っ込みたいのが本音なんだろう。

でも、規則では三割に近い票の譲渡は禁止と言う事になっているのだ。



令は今日の朝の出来事により思った…瑞穂にエトワールスールになって欲しいと。


十条紫苑さまを取り巻く三年菊組の雰囲気を解かしてしまう程の逸材が、エトワールスールに…「みんなのお姉さま」にふさわしくないはずがない。


ここは先手必勝、瑞穂さんの逃げ道をふさいでしまおう。
御門さんと相談した時点で、もう決ていた事だ。


「宮小路瑞穂さんに票を譲渡します。
 理由は単純です。私がリリアンの全生徒の中で「みんなのお姉さま」にふさわしいと思うからです」

壇上に上がった候補者たちから一歩進み出てあらかじめ用意していた言葉を述べていくと、再びどよめきが起こった。

決められていた事とはいえ、薔薇さまの一人が誰かを推薦するのは反響を呼ぶみたい。


「彼女はリリアンに来て日も浅いのに、私を何度も驚かせてくれました。
 同じクラスで隣の席だから、彼女のすばらしさはよく誰より知っています。
 彼女がエトワールになれば、彼女の素晴らしさが私に投票してくれた人たちだけでなく、生徒全員に分かるでしょう」


御門まりやさんと一緒に考えた譲渡の理由はリリアンの生徒達の興奮を呼ぶのに十分だったらしく。

「生徒のみなさんには黄薔薇さまの票を宮小路瑞穂さんに譲渡する事に異存はないようですね…では譲渡を認めます」


紫苑さまもこちらの味方だなんて、リリアンの生徒は思いもしないだろう。
まして、宮小路瑞穂の正体なんて…そう思うと笑い出しそうになってしまう。


さて…欲を出せばこの時点で過半数の票を集めたかったけれど瑞穂さんの票が三割を超えたからもう大丈夫だろう。

原則として三割以上の票の譲渡は禁止されている、つまり瑞穂さんの意思でエトワールスールを降りる事はできなくなった。

これではあまりにあっけないけれど…瑞穂さんの正体がばれるリスクを考えると簡単に事が進むに越した事はないだろう。




ブラウザの「戻る」でお戻りください