その存在が意味する物?



意識が覚醒した時、目の前には自分の顔があった。

それが何を意味するのか理解するのにしばらくかかったけれど、やはり昨日のは夢では終わらなかったとわかって安心する。



「瑞穂ちゃーん、朝だよ〜開けちゃうぞ〜」


しかし…ノックと共にかけられた声に慌てさせられる。
この展開はまずい…栞さんと違ってまりやには詳しい事情を話していない。


その上母さまは寝たまんま…腕を絡めて密着されて離れられない…しかもほどけない…もしかして母さまわざと…?


混乱しているうちにドアを開けて入ってきたまりやと目が合った。

ああ、この状況は昨日の焼き増しだ。



きっと







「瑞穂ちゃん、昨日に引き続き何やってんのよー」

とか…








「問答無用、仏の顔も三度まで〜っ!」

とか、想像に難くない…まだ二度目だけど。







「その女の幽霊…だれ?」

なぜかまりやは幽霊の存在をはっきり認知していた。
そういえば二年前にリリアンで幽霊に遭遇したって話してた事があったっけ。


その声に、母さまは宙に浮き上がり。挨拶をする。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。
 私は宮小路幸穂と申します。突然の訪問でお騒がせした事を平にご容赦ください」



「へ…宮小路…さちほ?まさか…信じられない…
 えーと…叔母さん…って事でいいのかしら?」


まりやのその言い方は間違っていない。
その呼び方には決して他の意図をこめたのではないはず…だけど。




「お・ば・さ・ん?」




…なんだか嫌な寒気が…。




「ほほほほ。よく聞こえなかったわマリヤちゃん。もう一度言っていただけるかしら?
 そうしたら遠慮なく、コトコト煮込んだ極上のマリネにしてあげてよ?」



その声と共に、部屋全体を自然ならざる風が吹きぬけた。

な…なんだ今の強烈な衝撃波みたいなのは…余波を受けただけで体がしびれて足がすくんでしまった…直撃を受けたまりやは腰が抜けたのか座り込んで動けなくなってしまっている。



「こ…このバカ幽霊…場所をわきまえなさいよ」

「まりや、その、話せば長いんだ、それがこの…」






「老けて聞こえる呼び方は禁止ね…幸穂ちゃんでいいわよ」
「さ…幸穂…ちゃ…」


しかし、仮にも親の世代の人間を『幸穂ちゃん』なんて…

「言えるかーっ!」

…だと思った。なのに外見は瑞穂と変わらないのである。


「…おば…じゃなくて幸穂さま…でいいわね」
「うん。その呼び方だとしっくり来るわ」



呼び方について一段落ついたので、黙っていた栞さんが口を開く。

「長谷川詩織さんや噂に聞く高根一子さんとはずいぶん違うのですね」
「私の場合、晩年は未練があっても幸せだったからよ」

栞さんはどうやら、幽霊というものは有害なものと考えていたらしい。



「これからどうするのです?
 幸穂さまがリリアンにとって害になるのでしたら…聖職者としては…今すぐ昇天しろと言わなくてはならないのです…貴女がずっとこの世にいる事は赦されません…
 貴女は危険で…危うい存在だと自分で気付いているみたいですが…」


栞さんには珍しく、表情をゆがめて苦しそうに話した。
その言葉の意味する事がわかっているからだ。


『できる事なら早くいなくなって欲しい』と…



数分前、母さまがまりやに放った衝撃波みたいなのを思い出す。
あんな能力を行使できて、しかも感情に抑制が効きにくいとなると危険極まりない存在になる。

彼女が怨霊にさせないの要因が彼女の倫理感だけだから…彼女自身長きに渡って正気でいられる自信がないのだろう。
危うい存在。関わるべきではないというのが久保栞さんの意見なのか。


おまけに世間的に見ると宮小路幸穂が今までしてきた事はリリアンにとって害にしかならない。

あってはならない存在を入学させた。
更に女子高の実質上のトップにその存在を据えてしまった。


「ですが、聖書は子を思う母の愛情を否定しろとは教えていません。
 リリアン女学院の白薔薇さまとして許容できる限り、貴女がここに滞在する事を認めます」


その言葉にほっとした。
幼い頃に両親を亡くしている久保栞さんは、内心ではこの招かねざる客を歓迎しているのだろう。


「ありがとう、白薔薇さま」


こうして、寮にもう一人。身内が住みつくことになった。




あとがき
ギャグのなかに暗い話をいれるのはちょっと…
しかし栞さんには締める所を締めてもらわないと今後まずい事になりそうなので…



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