佐藤聖さまの自爆 蟹名静さんが何を考えているのか分からないけど、元・妹の提案に俄然やる気になってリリアンの制服を着た聖さまが瑞穂さんに抱きつくのを見て、教本に目をそらした。 正体を知っているから、その二人の行為は性的な絡みを連想させるひどくいかがわしいものに見える。 唯一の救いは瑞穂さんが嫌がっている事だけど、佐藤聖さまの行為がエスカレートしていくのを見て、つい鉛筆を折ってしまった。 でも…御門さんが瑞穂さんの正体を白日の元に晒してしまい… 「う…ウソだよね……」 聖さまは認めてしまえば何かが終わってしまうぐらい認めたくない現実を直視してしまったヒトの表情になって… 「聖さま。以前に私が言った事を思い出してください…『彼』が羊の群れの中の狼です…」 …蟹名静さんがトドメを刺した。 ご愁傷様、お姉さま。 さあ、私と同じ奈落に堕ちてください。 先代白薔薇さまのものとはとても思えない絶叫が、寮に響いた。 令さんが持参したケーキと紅茶を味わいながらくつろげるようになるまで… 「し…死にたい…」 …佐藤聖さまは久保栞のベッドに顔をうずめて失意の底に沈んでいた。 このお手製のケーキはおそらく久保栞のご機嫌取りのために持ってきたのだろうけど、佐藤聖さま対策になってしまっている。 「何なのよその姿は!?その見かけで男って…バカにしてるわ!」 聖さまとは知り合ってだいぶ経つけれど、ここまでヒステリーな聖さまを見るのは久しぶりである。 小笠原祥子さんならわかるとして…佐藤聖さまがこうなるなんて…まぁ…お姉さまの性癖を考えればわからなくもないけれど。 「この私が言うのも何だけど…きっとコレはリリアン始まって以来の変態よーっ!」 佐藤聖さまは女性には優しいけど男性には厳しい…いや、正確にはもっと複雑な事情があるのだけれども。 相変わらず男性にはあまり好意的じゃない。 「佐藤聖さん、いくら前の白薔薇さまだからといってエトワールのお姉さまに向かって失礼ではありませんか?」 「事実でしょ紫苑!貴女がいながらどうしてこのオカマをエトワールになんかしたのよ!?」 口調も素になってますし…仮にもエトワールスールをオカマ呼ばわりとは失礼な…。 それに、さっきと言っている事が逆です。 「どうしても何も…瑞穂さんはリリアンの全校生徒の総意によって選出されたのです。 私にはその決定に賛成こそすれ、反対する理由も権限もありませんでした」 「そんな滅茶苦茶な…そういうのを開き直りって言うのよ…っていうか止めるでしょ普通!?蓉子に言いつけるわよ!」 「あらあら…水野蓉子さんならきっと喜んでくださいますわ…オンナの甲斐性だって…」 それは言葉の使いどころを激しく間違ってます紫苑さま。 「まさか紫苑…あなた…」 初対面で甘えられた後に勝手に自爆した佐藤聖さまの対応に困っている瑞穂さんは状況がつかめていない瑞穂さんに、御門さんが説明する。 「瑞穂ちゃんに紹介するわね、コレは佐藤聖、栞のお姉さまで去年の白薔薇さま。 あと真性の同性愛者で抱きつき魔のストーカー。以上、説明終わり」 「修正を要求しないんあたり、普通じゃないという事はわかりましたわ…」 一方、瑞穂さんと御門さんのやり取りをを見てお姉さまは再び固まる。 御門さんの同性愛者云々の悪意のこもった説明のせいだろうか? いや、お姉さまは変態呼ばわりされて傷つくほど繊細な神経の持ち主じゃないはず。 「男がその格好でお嬢さま口調…こ…これは…」 そう、それは昨日の晩からずっと栞を悩ませ続けてきた事…。 「これは?」 「ああもう歯がゆくて言葉にできないし言葉にしたくもなーいっ!」 聖さま、また爆発。 朝から感じていたこの言いようのない苛立ちは、瑞穂さんと関わりを持てば持つほど瑞穂さんの正体を忘れてしまいそうなことに起因している。 本当に…女性にしか見えない…女性としか思えないその外見やその仕草に無性に腹が立ってくるのである。 「でも癖になりますよねぇ、実際」 「他人の不幸は蜜の味…その風味豊かな事、この黄薔薇さまのケーキに匹敵します」 「御門さんが女装させるのがお気に入りと言うのもわかりますわ」 一方、令さんも静さんも紫苑さまも…瑞穂さんの立場なんか考えずにのん気にくつろいでる。 こんな考えができるから、瑞穂さんをエトワールスールにしてしまったのだろうけど…。 「あなた達を見てると、一人でくよくよ悩んでいるのがバカらしくなってきたぁ!」 聖さまはそう言い放つと淹れてくれた静さんに失礼な量の砂糖を紅茶に入れ、作ってくれた令さんに失礼な速度でケーキに食いつきはじめる。 人はそれをヤケ食いと言います…ああ…元から壊れていたお姉さまのイメージが更に削られていく…。 そんな聖さまを見ていると、代わりに取り乱してくれるから冷静にそれを眺める事ができ、言いたかった事は全部代わりに言ってもらったからようやく落ち着く事ができた。 ようやく、瑞穂さんが寮に住んでいるという現実を受け入れる事ができそうだった。 考えてみれば、一ヶ月一緒に暮らして何の不都合もなかったのだ。 彼女の正体を知ったからとって、大きな変化があるとは思えない。 「とにかく!こんな…こんな破廉恥極まりない事は前の白薔薇さまとして見過ごす訳には行かないわ!そういう訳で時々見に来るわよ」 結局、紫苑さまに説得されて聖さまは瑞穂さんの存在を認めることにしたみたい。 あとがき ああ…なんて楽しいんだこの聖さまは。 ギャクパート全開です…なんだこの逝かれたお話は… |