揺れる薔薇の館



「そろそろ乃梨子ちゃんを薔薇の館に連れて来たらどうかしら?」

放課後、薔薇の館にて祥子さまはそんな事をおっしゃっり…


「乃梨子は私の妹と言うわけではないんですけど…」

…そんな志摩子さんの言葉に薔薇の館の空気が張り詰めてしまった。


祥子さま、栞さまが志摩子さんにどう接していいか悩んでる時にそんな話題を持ち出さないで下さい…それともソレは分かってやっているのですか?



「誰も信じないわよ…そもそも、私達が荒療治に踏み切ったのはどこの馬の骨とも知れない編入生に大事な妹候補を取られないためでしょう?」



そうでしたっけ?
あの宗教裁判は、栞さまが志摩子さんとの関係を見直すためのものだったのでは?


「順番が逆ですよ紅薔薇さま。
 確かに乃梨子ちゃんは前から瑞穂さまの事と面識があったかもしれませんが…懇意になったのは最近の事です」


栞さまはプリント整理の作業をしながら淡々と間違いを指摘なさる。

最近乃梨子ちゃんがエトワールスールの宮小路瑞穂さんと図書室で話しているのがよく目撃されているのを警戒している祥子さまだけど…他の姉妹に干渉するなんて祥子さまらしくない。


「そんな事を言っているうちに、優秀な妹候補を取られたらどうするの?」

「志摩子に私の願いも伝統も強制するつもりはありません」

一方、祥子さまのほぅを見向きもせずに栞さまは二つのロザリオを示しなさる。
基本的に質素倹約…所有物を必要以上に持つ事を禁じられるシスター志望の栞さまが無意味に装身具を二つも持つはずがない。

片方は誰かにあげるための物としてとってあるロザリオと言う事で…それは誰かにあげる余地があるという事であって…。


「…まさかあなた…志摩子にロザリオを渡していないの!?」
「装身具の有無が姉妹の絆に何の意味を持つのですか?」

ああ…最悪の事態だ。
祥子さまもらしくないけど、栞さまの立場もかなり苦しい。
いつもならこの辺りで栞さまが譲渡するのだけれど、栞さまにも志摩子さんの前でこの問題に譲渡するわけにはいかない事情があるのであって…。


「それでも形式という物があるでしょうし、あなたは白薔薇さまでしょう?」
「形式に縛られ、本来あるべき寛容さを失うのは悲しいことだと思いませんか?」



栞さまは朝に祥子さまと相性が悪いと言っていた…確実に自分に非があると言う事でしか反省してくれないからである。



「それは甘やかしと言うのよ」
祥子さまは判断の基準が気分で大きく変化するからでお決めになる…人はソレを扱いづらいというのだけれども…。



一方、栞さまの基準は世間一般の常識じゃなくて彼女が信じる信仰に基づいている。
それは揺ぎないという点で頼りになるのだけれども、人間的じゃないという欠点を持っていて。

栞さまもそんなご自分の性質をご存知だけど、それ以外の選択肢を知らないから変えられない。

いつもはそんな栞さまに疑問を抱いてしまうけど、今朝の栞さまの豹変振りをみてわかってしまった。

栞さまは主にあって安らぎに憩う方法を知っているだけの普通の人だという事、


そして、栞さまはいつ倒れても不思議じゃないって事だ。

結局、何を言われても取り合わない栞さまが押し切られる形になって重苦しい沈黙の中で作業をする事になってしまった。






「もうこんな時間ですか。告白室に呼ばれているので先に失礼しますね」

「お姉さま…それなら私も一緒に…」

珍しい、作業を終えて席をお立ちになった栞さまに志摩子さんが声をかけてる。
でも栞さまに志摩子さんが着いて行こうとするけれど栞さまは断った。

「私が直接指名されたのです。
 あなたを連れて行く事で、信頼を裏切られたと思われるかもしれません」

確かに、白薔薇さまは正しいのかもしれない。
理にかなっているかもしれない…でも…。


あんな風に…朝に見た様子になるまで疲れるなんて…あんまりだと思う。



「栞さま。お願いですから休んでください…知っているんですよ。無理をしているって…」

「ありがとう。でも私は大丈夫です」


この時は思いもしなかった。
大丈夫じゃなかったという事を後で思い知らされる事になるなんて



あとがき

シリアスなんて嫌いです。
あとがきが書きにくいから…あとおとボクアニメと雰囲気がかけ離れるから…。


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